先に記載した「図書館機能の喧伝の為のTRPG活用」記事において、私は「来訪者をNPCとして設定し、プレイヤー(参加者)を助言者として活用する」方法を提唱したが、これは昨今流行の異世界転生物語(なろう系などとも呼ばれるみたい)に着想を得たものである。既に自分の勤務先の図書館にもその手の物語を導入している場合もあるかと思うが、物語のアウトラインは…

1.引きこもりや何らかの「人生あんまり成功してない系」主人公が割と初期の段階で死ぬ
2.気が付いたら主人公は異世界に転生していた
3.異世界において既知ではない現代日本の知識を活用して主人公大活躍

こんな感じである。現代日本にファンタジー世界の勇者が突如として現れるのは、上記の逆パターンに過ぎない。また物語構造的に(反転パターンではあるが)「最近の若者には良く知られたもの」であるから、理解は早かろうかと思う。異世界から来たという部分だけが重要なので、実際には勇者でなくても良い(異界では当たり前の能力の行使がこの世界では珍しく、有効でありさえすればいいのだ。これで完全になろう系転生物語の反転ができる)

なろう系の反転パターンと書いてはいるが、物語の骨子としては日本にも古来から伝わる「稀人信仰」とかに類型を見る事ができる。例えば桃太郎は「異界から現れた桃太郎」が「現実世界を生きる老夫婦」の前に現れ、偉業(鬼退治)を成し遂げて、老夫婦に富をもたらして終る。よくよく物語世界を見渡してみれば、類型は色々見つかる筈だ。北斗の拳も最初期はこれに近いのではあるまいか。

で、この物語の黄金パターンで是非とも紹介したい作品群がある。それは「荒山徹」である。
伝奇作家として知られる氏は、いくつもの作品で異界との接触物を公開している。その異界で大活躍する人物として良くモチーフにされているのが「柳生十兵衛」である。

気が付いたら朝鮮に柳生がいるし、気が付いたらフランスやイギリスで三銃士のダルタニアンと共にネス湖のネッシー相手に柳生しているのだから侮れない。余りの破天荒さに色々考えさせられるものがないではないが、シナリオソースとしては活用できるし、何しろ一発で素性が分かるのが良い。日本人剣豪で片目で凄腕と言ったら10人中9人までが間違い無く柳生十兵衛と答えるであろうし、残りの1人は伝奇物に傾倒し過ぎて柳生十兵衛は朝鮮人だったとか、まつろわぬ民だったとか、ユダヤの十氏族の末裔だとか言い出す良くできた連中であろう。荒山世界における柳生十兵衛は弘法大師空海並みにあちこちに遍在する。

そう、空海と名前を出しさえしなければ、弘法大師の神出鬼没ぶりは現代日本を舞台とした物語の中においてもフィットするだろう。この辺の濃いキャラクターを登場させて各種の創作へ参加者を誘うのも悪くないし、弘法大師が掘ったとされる井戸なんてものは調べればいくつか出てくるものではあるまいか。
また、既存の良く知られたキャラクターを持ち出すことで、NPCがどんな人物であるか説明する手間も省ける。
何? 柳生十兵衛を知らないって? 大丈夫だ十兵衛が出てくる小説はどこの図書館にも山ほどある。読みたまえ。
また、十兵衛や空海が出てきたら大抵の困難(特に戦闘とか)はサイコロの出目が悪くても克服できる。修羅の刻における陸奥の一族や刃牙における範馬一族みたいなもんだ。彼らが勝っておかしいと言う人は少なかろう。御当地剣豪がいるならそれでも構わない。どんなに強くとも現代日本の知識がないのであれば、彼らもそれなりに苦労するだろうから、参加者が知識面でサポートする意味は十分大きい。

伝奇物の小説などというものは、史実にするっと「異物」を放り込み、いけしゃあしゃあと「実は歴史の陰にこのような物語が!」とやる達人たちによって生み出された物語群である。S馬R太郎等の大御所も幕末期の隠密が紀州の奥地でユダヤがドーンとか書いてるし、モデルや逸話があるにしても一夢庵風流記とか前田K次郎があまりに規格外すぎる(漫画とは異なり、小説版では朝鮮出兵前に朝鮮で大暴れして「もうこいつ一人でいいんじゃないかな?」状態になる)
伝記作家という嘘を息を吐くように自然と吐き出す人々の著作は、今回提唱する「異世界からの来訪者ストーリー」を考察する上で大きな指針というか「こんぐらいやっても大丈夫か」というクソ度胸をつける上では役に立つだろう。

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